Studio Stick(以降S):ものづくりをして活動している人たちは、何を考えどう生活しているのか?!色んな人にインタビューして掘り下げていこう!という趣旨でやってはいるものの、まだ3回目という(笑)
今回は、陶造形作家の三宅直子さんです。よろしくお願いいたします。
三宅さん(以降M):よろしくお願いします!
● 平面から立体へ
S:三宅さんはStick企画ではお世話になっていることが多く、2010年の冬の企画展から始まり、個展2回、そして震災支援のEN PROJECTの展覧会にも参加してくださっています。もともと小笠原と同級生ってことで繋がったんですよね。
M:はい、小笠原くんとは多摩美の大学院の同級生です。
S:ご出身は大阪ですよね。
M:そうです。大阪芸大を卒業して、「やきもの」で表現できることの可能性を拡げたくて多摩美を受験しました。
S:もともとやきもの志望というか、粘土で立体を作ることがやりたくて?
M:いえ、それが全然。もともとは平面志望なんです。小さい頃からずっと絵を描くことが好きで、浪人までして大阪芸大の油画を受験するもダメで・・・、併願していた工芸の陶芸に合格するんです。それで、器を作りたい気持ちは全くなかったんですが、平面のキャンバスではなく、自分で作ったカタチに絵が描けるのも面白いかもしれないと思い、通ってみることにしまして。
S:あ〜。余談ですが私(森重)もそのパターンなんです。グラフィック志望のテキスタイル併願。でもこの予期せぬ運命が後に素敵な出会いになることがありますよね。私はそこで布という未知な素材に挑戦していくことになるんですが、三宅さんは粘土ですよね。どうでしたか?
M:沢山さわっていくうちに素材に惹かれていきました。平面の絵画と違って、作ったものが実際に手に取れることが新鮮で。
S:うまく順応してプラスにできたのですね。苦戦したことは?
M:思ったように色を出せなかったことかな。やきものは、焼き上がると焼く前と色が変わってしまうんです。絵具のように見たままコントロールできない。すると不思議なもので、やきものを作っていくうちに絵画表現したいと思わなくなってきて、自分の興味が“色”よりも“素材が持っている性質”に移っていきました。
S:え、じゃぁ絵画表現的なことは一切?
M:はい、一切。しかも作品の色も白・黒・灰になって(笑)
S:それはまた随分真逆に行きましたね(笑)
● 反発してたのに
S:やきものの制作にあたって頃影響を受けた人はいますか?
M:特にこの有名作家に!というよりは、大学や仕事で出会う身近な仲間に影響を受けていたと思います。あと今思えば父親なのかな。
S:お父さんものづくりの人?
M:作家ではないんですけど、教師をしていた父は机や棚などを自分で作る人で。家の中に趣味の工作場みたいなのがあって、工具や色んな道具がありました。
S:少女の三宅さんは、お父さんのお手伝いする!とか言って工具いじってたんですか?
M:いや、嫌いでした。音がうるさいし、家の中に電気線の切れ端が落ちてたりするし。あと作業着でウロウロしたり、木屑が着いてたり・・・。そういうのがすごく嫌だったんですよね。
S:乙女心は反発してたんだ(笑)
M:そう。でも今自分も工具をつかってそういうことしてるっていう(笑)
● まさかの頑固発言
S:大学院を出た後、どういう感じで活動してきたんでしょうか?
M:家具や店舗のアートワークなどを手がける制作工房でスタッフとして働くことになります。やきものと金属と事務の担当でした。
S:受注制作の仕事ですね。具体的にどういうものを制作したのですか?
M:例えば町田にある韓国料理店「アグンイ」の外壁とか、マンションのエントランスに設置するオブジェ、店舗の看板・サインなどです。
S:おー。世の中に自分の作ったものを出して需要と供給が成立してますね。
M:そうですね。学生の頃は漠然としていたことが現実になったと思いました。「自己表現としての制作」ではなく「注文者がいて打合せから完成まで関わる制作」だと。
S:さっき仕事仲間にも影響を受けたと言っていましたね。
M:はい。相談したり意見交換したり、得意な分野で力を貸しあったりすることは楽しかったです。あ、ここのボスにも影響というか衝撃を受けてますね。
S:エピソードあります?
M:私の「直子」という名前は、素直な子になるようにって親からつけてもらった名前で、自分でもまっすぐ生きて来たつもりだったのに、そのボスに「お前はなんて頑固なんだ」と言われたことがあって。
S:衝撃的だったんだ(笑)
M:うん。人に「頑固」っていわれるなんて夢にも思わなかったから。でも今思えば、自分には素直だったけど、人には素直じゃなかったのかも(笑)。言ってもらってよかったです。
● 'n studio(エン スタジオ)について
S:その制作会社には何年くらいいたんですか?
M:4年程です。
S:現在は町田市内に住居兼スタジオをかまえているんですよね。
M:はい。マンションの地下にスタジオを借りて制作しています。35㎡のコンクリートで水道と窓はないけど、防音なので真夜中でもグラインダーなどの大きい音が出る作業もできます。室温は1年を通して15度くらいなので快適ですよ。ただ湿気がすごいので、乾燥工程のときは外に出します。
S:水がないって、粘土って水必要なんじゃ・・・
M:うん、とっても不便なんですが、あらかじめバケツに水をくんでおけば制作できます。
S:窯もそこに?
M:いえ、窯は別の場所に共同のがあってそこで焼いています。
S:水がないのは不便だけど、自宅とスタジオが別なのはいいですね。スタジオには毎日行くんですか?
M:はい、だいたい毎日行って何かしらの作業をしています。でもね、地下だから制作に集中していると時間を忘れてしまって、気付くと朝になってることもしばしばで。凹みますよ、地上に出て太陽が昇ってると。
S:あぁ、窓ないからか。時計って集中すると見ないしね。ところでスタジオ名の「'n studio(エンスタジオ)」というのはやはり"naoko"の「n」?
M:それもあるんだけど"and"や"in"の略としての「'n」(Rock'n rollの「'n」の用法)、つまり誰かと私という意味を込めているんです。
S:個人制作で造形表現を発表する活動と、発信源が自分ではなく、注文者と相談しながら進めていく受注制作活動の2つ。
M:その2本柱で活動しています。
● そこにあるものの力
S:受注制作はどういうものが主ですか?
M:店舗の内装、例えばタイルとか洗面台、照明器具などですね。
S:三宅さんは、日常で簡単に見つけられる生活用品や公共物のカタチや表層をトレースして、それを器や花器など”使える”ものとして作品発表されていますよね。
M:置き換える、すり替える、ということに興味があるんです。特に面白みがないものや、誰もがその用途や表情を知っているもの、そういうものの見る角度を変えると面白くなる。それを考えるのが楽しいですね。
S:分かりやすい作品でいうならば。
M:例えば、この縞鋼板の皿(画像参照)。普段は足で踏んでいるもので、食べ物はのせない。でもそんなに違和感ないでしょう?
S:あぁ、むしろ焼き肉とか乗せたいですね。初めてこういう作品を作ったきっかけはなんだったんですか?
M:あるマンションのエントランスに白い花器を作ることになって、大きな(高さ80cm)ポットを作った仕事かな。
S:ポットって紅茶とか入れるような?
M:水差しみたいなかたちのものです。花器として作っていく過程で口がつけたくなって、そしたら取手もつけたくなって、マンションの入口にでっかいポットがあったら面白いなと思って。
S:確かに「何あれ?(笑)」ってなりますね。
M:なんかね、世の中には理屈抜きに何か面白いもの(こと)って探せばいくらでもあると思うんです。
S:「何これ?」っていうのは反応があるってことだしね。面白い/気持ち悪い/可愛い/変なの、などなど。Stickの前に小笠原の小さい作品があるんですけど、最初の頃よく小学生に「変なの〜、何これ〜」って傘で叩かれたりしていました。
M:うん、そういうアート作品とか、いわゆる”用途が分からない”ものって嫌煙されがちじゃないですか。だけど、私はものの力をすごく感じてるんですよ。そういう「分かんない」って言い切る人たちが反応してくれると「よし!」と思ったりしますね。
S:何でも積極的に楽しめる精神を持ってる人が見てくれると、ものづくりの人も元気もらえますよね。
●生活を楽しむ人たち
S:次は作品の色についてお聞きします。三宅さんの作品は、前述の通り色に興味がなくなってからは、白・黒・灰が主。でもこの灰がかった青緑のようなきれいな色も使われてますよね。
M:2010年頃なんですよ、その色が作品に出て来たのは。きっかけはタイルの注文。依頼主と話し合って、色んな色でサンプルを作ったんですけど、その中で自分の作品に使いたいなって色が出たんです。
S:お、また色に関心が?
M:でもやっと1色なんですけどね。その注文がなかったら今もカラーレスだったと思います。
S:最後に、今後の展望をお聞かせください。身近な目標でも何でも。
M:今はアシスタントや教室など制作以外の時間もあるけど、1日の流れの中で自然に作る時間がほしいですね。
S:朝起きてご飯食べて制作、ちょっと散歩に出て帰宅し、お昼食べて午後中制作、夕飯食べて明日のパン仕込んで、本読んで寝る、みたいな。
M:そうそう、合間にお菓子作ったりとか。
S&M:(しばし理想の1日に思いを馳せる)
S:大きいものを作るのと、小さいものを作る仕事のバランスがちょどいい時期っていいですよね。
M:うんうん。小さいものだと器はもちろん、家の表札とか、人の生活に関わるものを作りたいな。
S:やきものの表札、いいですね。
M:でも大抵の人はホームセンターに行って、メーカーのサンプルから選んでしまうでしょう? 中にはもうちょっとこうしたいな、とかのイメージがある人もいると思うんですよ。そういう人に、ホームセンターで作るのと変わらない価格で請負う個人の作家がいるんだと知ってもらいたいですね。
S:そうですね、知らないだけなんですよね。色々なことにおいて「知っている」ってことに尽きると思う。ひとつ好きを知れば、関連する新しい好きを知れたりするし。でもこの知ってもらうってことが難しいんですけどね。地道に活動していくしかない。
M:そうして、見つけてもらえる喜びを知っているから止められないんですよね。改めて、わたしは生活を楽しむ人たちの生活に携わる仕事をしていきたいんだなと思います。
S:今日はありがとうございました。